FTXの没落
FTX取引所の壊滅的な崩壊により、デジタル資産業界はMtGox以来の衝撃的なカストディアンの取り付け騒ぎを経験した。このレポートでは、FTXの倒産、セルフカストディにおける安全性の追求、そしてビットコイン強気派の対応について分析する。
2022年11月6日から14日にかけてデジタル資産業界で起こった出来事は、控えめに言っても、驚愕的かつ衝撃的、そして残念であることに他ならない。わずか1週間で、最も人気があり取引量の多い取引所の1つであるFTX.comは;
・取り付け騒ぎを経験した。
・顧客からの出金を停止した。
・競合のBinanceに買収されるための交渉が失敗。
・顧客資金が80億ドルから100億ドル不足していることが発覚。
・申し立てによると、取引所のウォレットがハッキングされ、5億ドル以上の被害を受けた。
・姉妹会社FTX USとともに連邦破産法第11条の適用を申請。
・Alameda / FTXの事業体が行ったと思われる不正行為が発覚。
このような事態は業界にとって大きな打撃で、何百万人もの顧客が資金を失ったままとなり、長年にわたる業界の建設的な評判が損なわれ、新たな信用に対する悪影響のリスク(その多くはまだ発見されていない可能性が高い)が発生することになった。この出来事は、2013年のMtGoxの破綻のような不幸な記憶を呼び起こし、それによって重要なカストディアンは部分準備制度を用いていることが認識された。
このような混乱の中ではあるが、デジタル資産領域は自由市場であり、今回の事象は基盤となる暗号技術ではなく、信頼されていた中央集権的な組織の失敗を表していることを忘れてはない。ビットコインに救済措置はなく、業界全体のデレバレッジによる山火事が、途中で著しい痛みを伴いながらも、すべての過剰、不正なものを一掃するだろう。再び取引所の準備金証明が注目され、セルフカストディが推進される中、今後数ヶ月または数年で市場は回復し、より強くなって戻ってくると思われる。
今週のレポートでは、以下を取り上げる:
・FTXのオンチェーンウォレットによる取り付け騒ぎに関する詳細
・取引所残高とセルフカストディへの広範な影響
・ビットコイン長期保有者による信念への影響の観察
翻訳について
今週のオンチェーンは、スペイン語、イタリア語、中国語、日本語、トルコ語、フランス語、ポルトガル語、ペルシア語、ポーランド語、アラビア語、ロシア語、ベトナム語、ギリシャ語に翻訳されている。
今週のオンチェーンダッシュボード
今週のオンチェーンニュースレターでは、すべてのチャートが表示されるライブダッシュボードをご用意しています。このダッシュボードと対象となるすべての指標は、毎週火曜日に公開されるビデオレポートでさらに詳しく解説しています。Youtubeチャンネルやビデオポータルでは、より多くのビデオコンテンツや指標のチュートリアルをご覧いただけます。
わずかな準備金
FTXがどのようにしてバランスシートに80億ドルから100億ドルの穴を開け、顧客預金を失ったかに関する真実は、(願わくば)いずれ明らかになるだろうが、多くの証拠が姉妹ヘッジファンドのAlameda Researchを通じた資金の不正流用を示唆している。Alameda、FTX、Binanceの間における背景情報および分析については、以下のソースを参照してほしい:
・Alameda、FTX、Binance間における資金の流れの詳細を示すTwitterのスレッド
・各社間の資金の流れを示すダッシュボードと関連チャート
・これらの最初の調査結果をまとめたビデオレポート
FTXはBTCの準備金に対して比較的複雑なピーリングチェーンシステム(ミキシングの一種)を用いていることから、長年にわたり、FTXの取引所準備金の追跡は多くのデータ・プロバイダーにとってやや困難なものであった。今年の4月から5月にかけて、我々のクラスタ内のFTXの準備金は102k BTCを超えるピークに達した。これが6月下旬に51.3%と劇的に減少している。
それ以来、準備金は継続的に減少し、今週の取り付け騒ぎで事実上ゼロになった。Alamedaが顧客預金を不正に流用しているという主張が明らかになるにつれ、Alameda-FTXの事業体は、LUNA、3AC、およびその他の貸し手の破綻に伴い、5月から6月にかけて実際に深刻なバランスシートの減損を経験していた可能性があることを示している。
FTXが保有するETHの供給量も、2回にわたって著しく減少している。
・6月には、準備金が-576k ETH (-55.2%) 減少。
・今週は、611k ETHからわずか2.8k ETH(-99.5%)まで減少。
ビットコインの残高と同様に、FTXが所有するウォレットにはETHがほとんど残っておらず、取り付け騒ぎによってバランスシートに残っていたものが事実上クリアされた状態となっている。
ステーブルコインの準備金を見ると、FTXの総資産は10月19日から大きく減少し始め、725Mドルから翌月には事実上ゼロになったことがわかる。
ステーブルコインの残高は、BTCとETHの残高が急激に減少した6月の売り相場の後に大きく急増し、持続的かつ新たな高水準となった。これは、その段階でバランスシートにある程度の減損が発生し、BTCやETHの担保のためにステーブルコインの交換や貸し出しが必要になったことを一層示すものと思われる。
FTXとAlamedaの間で実際に何が起こったのかについては、依然として大きな不確実性があるが、5月から6月の時点で亀裂が生じていたことを示すオンチェーンデータが蓄積されつつあることは確かである。このことから、ここ数カ月は、取引所の崩壊が避けられないことを示す単なる前兆にあったことを示している。
💡新しいダッシュボードのリリース
我々は、投資家の行動を観察するためのツールボックスとして、ビットコインのコホートサイズと残高の変化を調査する3つの新しいダッシュボードをリリースした。以下のチャートは、エンティティ残高変更ダッシュボード(T3)をソースとしており、アドレスコホートダッシュボード(T2)で補完することができる。
セルフカストディにおける安全性
業界全体では、保有者がセルフカストディにおける安全性を求めていることから取引所からコインが歴史的な速度で撤退していることが分かっている。以下のチャートは、FTXのトラブルがまだ初期段階であった11月6日以降の取引所、投資家ウォレットコホート、マイナーの総残高変化を図にしたものである。
取引所では、7日間で72.9千BTC減少し、BTC残高の純減が史上最大となった。これは、過去に2020年4月、2020年11月、2022年6月〜7月という3回だけ発生した時期と比較できる。
ETHについても同様の観測が見られており、先週は110.1万枚のETHが取引所から引き出された。これは、スマートコントラクトの担保としてETHの需要が急増した「DeFiの夏」のピーク時である2020年9月以降、30日間の残高減少幅としては最大となる。
今週はBTCとETHの取引所残高が減少する一方で、ステーブルコインは取引所へ純流入しており、11月10日にはUSDT、USDC、BUSD、DAI合わせて10億4000万ドル超が流入した。 これは史上7番目の1日の純流入量となる。
これにより、全取引所の保有するステーブルコインは、過去最高の418.6億ドルとなった。また、BUSDの優位性が顕著に高まっており、取引所準備金として214.4億ドル以上保有されていることが確認できる。これは、Binanceが最近BUSDにステーブルコインを集約し、世界最大の取引所としての優位性を高めた結果と思われる。
USDTの為替準備金はここ数カ月でわずかに減少、USDCの為替準備金はより大幅に減少しており、市場の選好が変化している可能性があることを示している。
興味深いことに、これらのステーブルコインの多くはスマートコントラクトから調達されており、イーサリアムのスマートコントラクトから毎月46億3000万ドルの割合で引き出されている。これは、即時におけるドルの流動性に対する需要がいかに重大になっているかを浮き彫りにする作用がある。
その結果、市場は興味深い状態になった。中央集権型のステーブルコインが取引所に流れ込む一方で、2つの主要暗号資産であるBTCとETHは歴史的な速度で引き出されている。下のチャートは、以下を反映した2分割モデルである:
・バーコードトレースで🟧がないのは、取引所でBTCとETHが正味で流出していることを示している。
・オシレーターは、ステーブルコインの純流入額からBTC + ETHのネットUSDフローを差し引いたものを示している。正の値🟢の場合、ステーブルコインの「購買能力」が過剰に取引所に流入したことを示している。
ここでは、全体として、取引所におけるステーブルコインの純購買力が40億ドル/月増加していることがわかる。これは、市場の混乱にもかかわらず、投資家が現時点では中央集権型ステーブルコインよりも、トラストレス(信用不要)なBTCやETHの資産を保有することを好んで見えることを示している。
これは非常に興味深いシグナルであり、ベースレイヤー資産に対する信頼の建設的なサインであり、市場がセルフカストディに安全性を求めている事象であると主張することができるだろう。
ビットコイン残高の膨張
取引所から大量のBTCが流出する中、すべてのウォレットコホートにおいて、FTX事件は投資家の行動に明確な変化をもたらしたことがわかる。オンチェーンウォレットは、エビ (< 1 BTC) からクジラ (> 1k BTC) まで、FTX崩壊の間、純残高が増加🟦した。いくつかのコホートでは、ここ数ヶ月の持続的な売却🟥のレジームからほぼ完全に180度転換している。
エビコホート(1BTC未満)は、今週だけで33.7k BTCを追加し、30日間で+51.4k BTCの増加となった。このレベルの残高流入は、2017年の強気相場のピークを上回る史上2番目の大きさである。
1~10BTCを保有するカニコホートも同様に積極的で、取引所から48.7k BTCを引き出し、2017年の強気市場のピークに匹敵する取得率に近づいてきている。10BTC未満のエンティティは現在、流通供給量の15.913%以上を占め、過去最高を更新している。
10~1,000BTCのウォレットコホートは、俗に「魚」「サメ」と呼ばれている。このコホートは、個人の富裕層、商社、機関投資家程度の残高を持つエンティティを反映している。
数ヶ月に渡って残高の増加は鈍化していたが、今週はコホート残高が78.0k BTCという著しい増加を見せ、このコホートにとって歴史上最大レベルで残高が増加した7日間となった。これは、「まずは出金、疑問は後で」というメンタリティを反映していると思われる。
1,000BTC以上を保有するクジラについては、取引所から直接流入・流出するコインのみを考慮した。これは、これらの大規模な事業体における真の投資家活動をより良く反映させるためである。クジラはここ数週間、実際に純貯蓄者であり、30日間の残高変化は+53.7k BTCであった。
しかし、今週のネット上での参加は他のコホートより桁違いに少なく、+3.57k BTCという小幅な残高増加であった。
最後に、ビットコインのマイナーだが、彼らはすでに苦境に立たされており、最近のコイン価格の下落により極度のストレスを受けている。ハッシュ価格が史上最低水準になるにつれ、今週、マイナーは約9.5%の資産を清算せざるを得なくなり、7.76万BTCを消費した。これは2018年9月以来、最も急激な月間マイナー残高の減少であり、ビットコインマイナーのプロシクリカルな性質を実証している。
HODLersの決意
このニュースレターの最後のセクションでは、ビットコインHODLersの反応を取り上げ、明らかな信念の喪失があったかどうかを精査する。FTX崩壊のインパクトの大きさと広範囲に及ぶ影響を考えると、HODLerが資産への信頼を失う時があるとすれば、それは今であろう。
長期保有者の供給は、統計的に最も消費されておらず、11月6日以来-61.5k BTC減少している。この7日間で約48.1千BTCが消費されており、これは確かに重大な出来事として記録される。しかし、上記の残高変化の規模や過去の事例と比較すると、まだ信頼が失われるような損失が広がっているわけではない。しかし、これが持続的なLTH供給量の減少に発展した場合、そうでないことを示唆する可能性はある。
下図は、1年以上休眠した供給量の週次累計を4年Zスコアで示したものである。先週、1年以上古い97.45k BTCのコインが使用され、流動的な流通に戻った可能性がある。
これは4年ベースで+0.83シグマの動きであり、注目に値するもののまだ歴史的な大きさには達していない。LTH供給と同様、この指標は持続的なトレンドに発展する可能性があるため、注目すべき指標である。
1BTCあたりの平均年齢も今週は90日強に上昇しており、9月から10月にかけての低ボラティリティ環境で観測された日数の3倍である。古いコインの消費が増加していることは注目に値するが、これは以前のキャピチュレーションの売り相場イベントや、2021年の強気相場の利益確定に見られたピークと一致している。
持続的な上昇トレンドや休眠レベルの上昇は、HODLerコホートの間でより広範なパニックが根付いたことを示唆しているのかもしれない。
最後に、4年間のZ-Scoreコンストラクションに戻るが、今回は破壊されたコインデーの週次総量(CDD)について見てみる。ここでは、コインの休眠状態が極端に長く続いた後の、今週のコインデーの消滅量は平均より+1.9標準偏差を記録したことが分かる。今週は合計165Mのコインデーが消滅されたが、これは1年間保有された452.2k BTCの消費に相当する。
全体として、HODLerコホート内では確かに一時のパニックが発生した。しかし、事態の大きさを考えると、これは間違いなく想定範囲の結果である。より興味深いのは、今後数週間のうちにこうした動きが弱まるかどうかであり、これはこの急落による一掃が「トレンド」というよりも「イベント」であることを示唆している。
一方、古いコインの使用量が持続的に増加し、LTHの供給量が減少した場合、より広範な信頼と懸念の喪失を示す明確な警告となるだろう。
サマリーと結論
FTXの破綻は重大であり、業界にとって真の黒歴史である。プラットフォームの利用者は窮地に陥り、カストディアンに預けていた資金が失われるというのは、本当に恐ろしい出来事である。これは悲しい山火事のようなもので、いずれ起こるべくして起こったデレバレッジの出来事であり、歴史的にビットコインとこの業界はまた強くなり立ち直るだろう。
我々Glassnodeは、読者の皆様一人一人がこの困難な時に最善を尽くされることを祈っている。この業界は他の業界とは異なり、日常的に試練に晒されているが、その覚悟に大きな自信を抱いている。このような時こそ、ビットコインのように、回復力があり、堅牢で、健全で、止められない存在になろう。この先にはチャンスの道が待っている。
過去の同様の災いと同様、時間と忍耐力で傷を癒し、この真の自由市場は過ちから学ぶことで一層強く成長し、昨日よりもたくましくなって戻ってくるだろう。
チクタク、次のブロックへ。
多言語チャンネル
新しいソーシャルチャンネルが立ち上がったことを喜ばしく思う。
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